小田切訓（1943-2021）は北海道雄武町生まれの洋画家で、札幌旭丘高校第1回卒業後、明治大学を卒業。1975年にブロードウェイ新人展や一線美術展に入選し、1977年に東京で個展を開催、示現会・東光会展に入選し、以後も日展や現代洋画精鋭選抜展で受賞を重ねた。示現会では佳作賞や奨励賞を複数回受賞し、1990年には示現会安田火災美術財団奨励賞を受賞、同会委員を務めた。2000年まで日展に入選を続け、2014年に無所属となり、2015年には紺綬褒章を受章。洗練されたシャープな描線と透明感ある独特の色彩が特徴で、特に「小田切グリーン」と称される樹木の色彩表現が評価された。情景豊かな作品世界を確立し、東京、大阪、名古屋、仙台、札幌などで個展を多数開催しながら、独自のリアリティを追求し続けた。

小田切訓「緑の運河」油彩 6号 2007年作
小田切訓による《緑の運河》は、2007年に制作された油彩作品で、ヨーロッパの街角に広がる運河沿いの風景を、鮮やかな緑と軽快な筆致で描き出した一枚です。画面には、運河に架かる橋とその両岸に連なる街並み、そして初夏の陽光を浴びて輝くような木々の緑が広がっています。遠景には尖塔を持つ教会がそびえ、歴史ある街の落ち着いた佇まいが感じられます。画面下方には、静かにたゆたう水面が描かれ、そこには橋や緑、建物の影が柔らかく映り込み、幻想的な美しさを漂わせています。

小田切作品の特徴である「小田切グリーン」と称される独特の緑の色彩は、本作でも特に印象的に用いられており、自然の生命感と都市の調和を詩情豊かに表現しています。筆触は生き生きとしており、風や光の移ろいまで感じさせるような臨場感があります。日常の風景を、静謐かつ明るいまなざしで描くことに長けた小田切の画業を象徴するような作品であり、都会の喧噪を忘れ、観る者に静けさと潤いをもたらしてくれる、心安らぐ風景画です。自然と都市が穏やかに共存する情景は、時代や場所を超えて、普遍的な美を私たちに語りかけてきます。